金融危機の原因は、テイルリスクがたまたま発生したことである、という見方がありますが、こうした見方は間違っていると思います。
テイルリスクとは、ごく稀にしか発生しないけれど、発生するときにはドカーンと大きく発生するリスクをいいます。東日本大震災の原因となった311大地震はテイルリスクの典型です。
金融危機の原因をテイルリスクに求める見方では、「一件一件の債務不履行は確率的に発生する。債務不履行がいくつも立て続けに起こらない限りリスクが表面化しない仕掛けの証券をつくる。債務不履行が立て続けに起こる確率は非常に小さいので、この証券のリスクはテイルリスクである。先般の金融危機はそのテイルリスクが発生したのだ」という説明になるわけです。この説明の前提は「債務不履行は確率的に発生する」という理解に基づいています。ここに間違いがあります。
債務不履行が確率的に発生するためには、債務者が誠心誠意返済に努め、やむを得ない事情が生じた場合にだけ債務不履行する、ということが大前提です。債務不履行を行うことで債務者が得する機会があっても、債務者は決して債務不履行を行わない、という義理堅い債務者をイメージしています。どこの星の話でしょうか? 地球人はそれほど義理堅くありません。米国でサブプライムのローンを借りた債務者は、債務不履行で得する機会があるならば、どしどし債務不履行を行います。これを戦略的債務不履行といいます。ギリシアの国民は財政再建に反対してデモを行います。財政再建するな、外国から追加で金を借りろ、借りられないなら債務不履行しろ、と要求しているわけです。これは誠心誠意借金返済に努める姿ではありません。
債務不履行は確率的に発生するものではない、意図的に発生するものです。合理的で利己的な人は、債務不履行で得するならば必ず債務不履行します。戦略的債務不履行です。戦略的債務不履行を防ぐには、債務不履行を行った債務者が損するような仕掛けが必要です。その仕掛けがない限り、債務者は債務不履行するし、債権者はお金を貸さなくなります。これが金融危機の正体です。
債務不履行のような裏切りは確率的に発生するイベントではありません。裏切りを抑制する仕掛けがない限り、裏切りは必然です。